Ryzen 7 5700Xが名機と呼ばれる理由は、単に安かったからではない。
8コア16スレッドの十分な性能を、PPT 76Wという異常に扱いやすい電力枠に収め、それを安いB550、DDR4、空冷クーラーで使えたからだ。
CPU単体ではなく、PC一台として完成させた時のバランスが異常によかった。
5800Xは142W、5700Xは76W。それでも同じ8コアZen 3
5700Xを語るなら、TDP 65Wだけ見ても面白くない。
重要なのはPPTである。
同じZen 3、8コア16スレッドのRyzen 7 5800XがPPT 142Wなのに対し、5700Xは76Wに抑えられている。
ほぼ半分の電力枠で8コアを回している。
当然、発熱も小さい。
3000円以下の120mm空冷でも十分に冷やせたし、エンコードやレンダリングで全コアを長時間使っても扱いやすかった。
5800Xのように「8コアだから冷却もしっかり考えるCPU」ではなく、5700Xは「とりあえず普通の空冷を付ければいい8コア」だった。
この差はデカい。
しかもPC全体が安かった
5700Xが強かったのは、発売された時期もよかった。
AM4はすでに成熟し、B550マザーは安く、DDR4も安い。高価なVRMを持つマザーも、高級CPUクーラーも必要ない。
つまり、
5700X+安いB550+安いDDR4+3000円クラスの空冷
これだけで、8コア16スレッドのかなり強いPCが完成した。
新CPUを買ったらDDR5も新マザーも必要、という現在の世代交代とは話が違う。
5700XのコスパはCPU価格だけで測ってはいけない。
システム全体が安かったのである。
PCショップで売る側から見ても、異常に優秀だった
筆者がPCショップで働いていた当時、5700Xはかなり扱ったが、CPUそのものが原因となるRMAや初期不良の印象が非常に薄い。
これはAMD公表の故障率ではなく、あくまで店頭での経験談である。
それでも「ピンを物理的に曲げない限り、まずCPUを疑わない」という感覚になるほど安定していた。
AM4のPGAも、CPUを落とせばピンが曲がる弱点はある。一方、筆者の経験では、初心者がLGAソケット側のピンを曲げてマザーボードごと壊す事故より対処しやすかった。
安い、冷えるだけでなく、売った後まで面倒が少ない。
ショップ側から見ても名機だった。
Core i5-13400や14400にはない「8コア全部同じ」という素直さ
後に登場したCore i5-13400や14400は、6Pコア+4Eコアの10コア16スレッド構成で、マルチ性能も強かった。
ただ、5700Xにはハイブリッド構成にはない単純さがある。
8コア全部が同じZen 3コアである。
ゲームでも、エンコードでも、レンダリングでも、8個の同じコアをそのまま使う。
スケジューラーやゲーム側がPコアとEコアをどう使うかという話がなく、挙動を予測しやすい。
しかもPPTは76W。
速さだけなら後発CPUに負ける。しかし「どんな負荷を掛けても扱いやすい」という5700Xの長所は、ベンチマークの数字以上に大きかった。
76Wで満足できなければ、PBOで遊べた
そして面白いのが、5700Xは最初から性能を出し切ったCPUではなかったことだ。
定格では76Wに絞って静かに使える。
もっと性能が欲しければ、PBOでPPT・TDC・EDCの制限を広げられる。
筆者の経験では、PBOを詰めればCinebench R23 Multiで15,000台後半も狙えた。
初心者には76Wの扱いやすい8コア。上級者にはまだ伸ばせる8コア。
ここまで都合のいいCPUはなかなかない。
5700Xは「遅れて出た」からこそ名機になった
5700Xの登場は2022年。Zen 3自体の登場からかなり遅い。
普通なら弱点だ。
しかし、その遅さによってAM4、B550、DDR4という周辺環境が完全に成熟し、価格まで下がっていた。
そして成熟したZen 3を、5800Xのように142Wまで使わせるのではなく、76Wに絞って安く売った。
結果として、
速い。冷える。安い。壊れにくい。マザーもメモリも安い。そしてPBOで遊べる。
一つ一つは地味である。
だが、自作PCでは、この「全部ちょうどいい」が一番強い。
Ryzen 7 5700Xは最高性能だったから名機なのではない。
Zen 3とAM4が成熟しきった最後に、すべての条件が偶然噛み合って生まれた完成形だったから、名機なのである。
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