マザーボード選びでASRockのラインナップを眺めると、「Taichi」や「Steel Legend」、「PG Nova」「PG Riptide」「PG Lightning」といった横文字の羅列に戸惑う方は少なくないだろう。かつては「変態メーカー」と称されるほど独創的な設計で有名だったが、今のASRockは「価格に対するVRM性能の高さ」で選ばれる、極めて合理的なブランドだ。
ここでは、シリーズの階層と型番ルールを技術基準で整理する。これを読めば、名前に惑わされず用途に合った一枚を選べるはずだ。
PROシリーズ:コスト重視のスタンダードモデル
ASRockの基本となるベースモデルだ。ゲーミング向けの装飾や過剰な機能を省き、安定動作とコストパフォーマンスを優先している。オフィス用途や予算重視の自作PC、必要最低限の機能で組みたい場合に適している。
型番はPRO4が最廉価、PRO-Aが標準、PRO RSがPROシリーズ中最上位となる。Wi-Fi搭載モデルには「WIFI」が付き、フォームファクターは「M」がMicroATX、「I」がMini-ITXを表す。
同価格帯の他社製品では廉価なディスクリート型MOSFETを採用していたり、パワーステージ数が削減されがちだが、ASRockのPROシリーズは価格に対しVRMがしっかりしていることが特徴だ。拡張性は製品次第だが、コスパという点では、他社より頭一つ抜けている。
PG Lightning:PGの名を冠するが、性能はPRO RSとほぼ同等
ここが最も誤解されやすい部分だ。PG LightningはASRockのラインナップの中で上位シリーズとして位置づけされる、Phantom Gamingブランドを冠するが、その位置付けは「ハイエンド」「アッパーミドル」ではない。
B650チップセットなどでの比較では、PG LightningはPRO RSとほぼ同等の基本性能を持つ。両者のVRMは同じ60A定格で同フェーズ数、SPS(Smart Power Stage)を採用している点も共通だ。
細かいPCIeレーンの分割や基板設計の仕様が違うだけで、本質的なスペックは全く変わらない。価格対性能比で言えば、PG Lightningのほうが若干安い傾向があり、純粋なコスパという面ではPG Lightningが上回る。しかし、白系という付加価値や汎用性がPRO RSシリーズにはあるので、ここは使う人と見た目の好み次第だ。
Steel Legend:耐久性とホワイト構成の定番
ASRockの看板とも言える大人気シリーズだ。白や銀のヒートシンクと冬季迷彩柄の基板が特徴で、ホワイトPC構成を組む際の定番となっている。他社でいうとMSI TOMAHAWKや、ASUS TUF GAMING PLUSシリーズに相当するメインストリーム帯の製品だ。
特筆すべきは、価格帯に対して上位モデルと同等、あるいはそれ以上のコンポーネントを採用する傾向が強い点だ。例えばB650Eモデルでは16フェーズ(60A SPS)を搭載するなど、「長く、安定して使いたい」という自作ユーザーの心理を正確に突いた、絶対に外さない選択肢となる。
PG Riptide:Phantom Gamingの主力にして、Steel Legendの上位
ASRockの公式なモデルラインナップにおいて、Steel Legendよりも一段上位(ハイエンド寄り)に位置づけられるのがこの「PG Riptide」だ。最新のネットワーク機能(Wi-Fi 6E/7)やPCIe 5.0 M.2を標準化し、よりゲーミング向けのインターフェースに特化している。
ここで非常に面白いのが、世代やチップセットによっては、下位であるはずのSteel Legendが16フェーズ、上位のPG Riptideが14フェーズ(共に60A SPS)といったように、実際のVRMスペックで逆転現象(下剋上)が起きている点だ。しかし、基板全体のグレードやゲーミング環境における総合的な立ち位置としては間違いなくRiptideが格上となる。
黒系が好みならRiptide、白系が好みならSteel Legendというふうに色で選ぶのがおすすめだ。
PG Nova:Taichiの一歩手前、PGの頂点
PG Novaは、Phantom Gamingシリーズの最上位モデルだ。Taichiに迫るVRM構成、Wi-Fi 7/6E、複数M.2スロットとPCIe 5.0対応を標準化。「迷ったらNova」と言えるほど、現行ASRockで最も勢いがあるゲーミングボードだ。
PG Novaの本質は、「Taichiの電源回路をゲーミング環境に最適化し、装飾を必要十分にしたもの」という位置付けにある。RGBやオーディオコーデックは充実させつつ、過剰なバックプレートや大理石デザインを削ることで、実性能と価格のバランスを最大化している。一般ゲーマーにとって、PG Novaが実質的な上限になる。Taichiへのステップアップは、限界OCやワークステーション級の高負荷演算を目的とする場合のみで十分だ。
Taichi(タイチ):フラッグシップの技術結集と「Liteの賢さ」
ASRockの技術力を結集した最高峰シリーズだ。歯車をあしらった意匠が特徴だが、本質はその「過剰なまでの電源回路」にある。極厚のヒートシンク、低損失サーバーグレード基板、充実した拡張インターフェースを備え、Core i9やRyzen 9の常用・高負荷OCならここが終着点になる。
派生モデルには明確な役割分担がある。
- Taichi Carrara:発売20周年を記念した大理石デザイン派生版。中身は標準Taichiと同一で、外観の差別化が目的だ。
- Taichi Lite:装飾・RGB・バックプレートを大胆に削ぎ落とした分、「Taichiと同等の超強力なVRM」を安く提供する。見た目より実利を重んじる玄人向けの「最高に賢い選択肢」だ。
- Taichi Creator:「X870 Taichi Creator」などに代表される、Taichiの圧倒的な基板をクリエイター特化させたモデルだ。ASUSでいうProArtの立ち位置になり、10GbEやデュアルUSB4、PCIeスロットやM.2スロットの帯域分割といったプロ仕様のインターフェースと、Taichiの堅牢な電源回路を見事に両立している。
LiveMixer:特殊用途の配信特化モデル
価格帯はメインストリームだが、汎用性能ではなく「USBポートの異常な多さ」と「オーディオ信号のノイズ耐性」に特化した特殊設計だ。配信者や音楽制作用途では強力な選択肢だが、純粋なゲーミング用途ではSteel LegendやPG Riptideの方が適している。
型番末尾の記号:仕様のバリエーション
ASRockの型番は、後ろのアルファベットで機能差を明確に示している。
- WIFI / AX / BE:無線LAN搭載。AXはWi-Fi 6E、BEはWi-Fi 7に対応。
- D4 / D5:対応メモリ規格。現行はDDR5(-D5)が標準。
- M:MicroATXフォームファクター。基板サイズが変わるとVRM構成やスロット数も変動するため、バランスを確認する必要がある。
- I / ITX:Mini-ITX。ASRockのITXは「変態時代」の名残か、極めて高密度で強力なモデルが多い。
- HDV:超廉価・エントリー版。「High Definition Video」の略だが、実態は「必要最低限」を意味する。
- RS:PRO RSなどで使われる「RS」は、実は「Race Sport(レーススポーツ)」エディションの略だ。
まとめ:型番をよく見て賢く選ぼう
マザーボード選びで重要なのは、雰囲気で選ばず用途と予算を明確にすることだ。以下の基準を参考にすると、失敗が減る。
- 価格優先・必要十分: PRO RS(WIFI)
- コスパ最強・隠れた実力機: PG Lightning(WIFI)
- 充実した性能・ホワイト構成: Steel Legend(WIFI)
- 高品質ゲーム環境・ブラック構成: PG Riptide(WIFI)
- 最新機能を全部乗せ・ゲーミング上限: PG Nova
- 最高性能をコスパよく手に入れたい: Taichi Lite
- 限界OC・ロマン構成: Taichi / Taichi Carrara / Taichi Creator
型番のアルファベットは世代によって細かな仕様が変わるため、最終判断は必ず公式仕様書を確認してほしい。特に電源回路(VRM)の品質は「フェーズ数」だけで判断できず、「パワーステージの種類(SPS / Dr.MOS)」「定格電流」「ヒートシンクの熱容量」が重要となる。ASRockの面白さは、ラインナップの序列と実際のパーツ構成が逆転することがある点だ。納得のいく選択をしてほしい。
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