「TDP 65Wだから、このCPUは最大でも65Wしか使わない」
違う。
TDPは最大消費電力じゃない。
Thermal Design Power、つまり冷却機構を設計するための熱量の目安にすぎない。CPUが実際どこまで電力を使えるかは、AMDとIntelでまったく別の上限が設定されている。
TDPだけ見て「省電力」「爆熱」と語ってる時点で、スペック表をまだ半分も読めていない。
AMDはTDPじゃなく、CPUごとのPPTを見ろ
AMD Ryzenでは、CPUごとに標準PPTが設定されている。
Ryzen シリーズでは、基本的にこの組み合わせだ。※一部例外もある
| TDP | 標準PPT |
|---|---|
| 65W | 88W |
| 105W | 142W |
| 120W | 162W |
| 170W | 230W |
| 200W | 270W |
見ての通り、おおむねTDPの1.35倍が標準状態の電力上限になる。
これはAM4やAM5ソケットそのものの絶対上限じゃない。各CPUに個別に設定された標準PPTだ。
AMDはPrecision Boost 2でPPT、電流、温度、電圧、クロックを常に監視し、どれかの上限に当たるまで自動的にブーストし続ける。だからPPTが142Wでも、先に温度やクロックの上限に当たれば、実消費電力はそこまで届かないこともある。
AMDは、まだ良心的な方だ。
問題はIntelである。
Intelの「65W」は最大219Wまで化ける
Core i7-14700FのProcessor Base Powerは65Wだ。
しかし、Maximum Turbo Powerは219W。
65WのCPUじゃない。最大219Wまで許可されたCPUだ。
Core i7-14700Kも、ベース電力125Wに対して最大ターボ電力は253Wまで伸びる。
Intelでは主にこの5つの値が使われる。
- PL1:長時間維持する電力上限
- PL2:ターボ時の電力上限
- Tau:PL2を維持する時間
- PBP:Processor Base Power
- MTP:Maximum Turbo Power
しかもマザーボード側で、PL1とPL2を同じ253Wにベタ張りしたり、Tauを事実上無制限にしたりできる。逆にPL2を一瞬で切り上げて、すぐ65Wへ叩き落とすことも自由自在だ。
同じCPUなのに、設定次第でまるで別物に変身する。
13・14世代Coreの不安定性問題でも、Intelはマザーボード側の電力設定がIntelのガイドラインを超えていたことを、原因の一つとして自ら挙げている。
ハチャメチャである。
「省エネ」の看板にも同じ罠がある。Core Ultra 200Sの例
TDPの罠は、旧世代のCPUだけの話じゃない。
Intelの最新世代、Core Ultra 200S(Arrow Lake)でも同じPBP/MTPの枠組みがそのまま使われている。
Core Ultra 7 265(無印)はPBP 65W、MTP 182W。Core Ultra 7 265KはPBP 125W、MTP 250W。
Core i7-14700FのMTP 219W、14700KのMTP 253Wと比べると、たしかに数字は下がっている。
だが、下がり方をよく見てほしい。無印同士で219W→182W、K付き同士は253W→250Wでほぼ変わっていない。「刷新されて劇的に省エネになった」と持ち上げる記事が量産されるほど、仕様上の電力上限は落ちていない。
Core Ultra 200Sが「省エネ」と評されること自体は間違いじゃない。アーキテクチャの改良とプロセスルールの微細化によって、実用時の消費電力が実際に下がっているのは事実だ。
ただし、これは主にゲーム、ブラウジング、オフィス作業のような一般用途の話である。
クリエイティブ用途、つまりレンダリングやエンコードのように全コアへ負荷をかけ続ける作業では、上限の250Wまでしっかり張り付く。一部サイトで「鬼ワッパ」と持ち上げられているのを見かけるが、それは用途を選んだ上での評価にすぎない。
さらにゲームに限定すると、話はもうひとつねじれる。
モノリシックダイの13・14世代(Raptor Lake)は、タイル構成のArrow Lakeよりも基本的なレイテンシで有利であり、ゲーム用途に限れば13・14世代の方がワット当たりの性能で上回る場面すらある。前述したBTOのPL1 65W固定構成でも、ゲーム性能はほとんど落ちない。ゲームはそもそもそこまで電力を食う負荷じゃないからだ。
AMDの9800X3Dとの比較でも、同じ注意が要る。「265Kの方が9800X3Dより省エネ」という書き方を見かけるが、9800X3Dのベンチマークは他社に負けないよう積極的な高性能設定で測定されることが多い。3D V-Cacheがダイの下に積層された構造上、7800X3Dより攻めた電力設定を組みやすい一方、放熱はキャッシュに阻まれて悪化しており、360mm以上の高性能簡易水冷でなければフルパワーを発揮しきれない。
PPTを88W以下のエコモードへ絞っても、9800X3Dのゲーム性能はほとんど落ちない。むしろこの設定では、全CPUの中でワット当たりのゲーム性能が最も高くなる。
TDPだけでなく、「省エネ」という評価そのものも、どの用途で測ったかを確認しないと簡単にひっくり返る。詳しい比較は、GearTuneの既存のCPU効率比較記事も参照してほしい。
BTOのCore i7がRyzen 7に負ける、その理由
特に注意したいのがBTOパソコンだ。
Core i7-14700Fは20コア28スレッドで、PL2は219Wもある。
だが、安いCPUクーラーと貧弱なマザーボードで売るために、PL1を65Wへ固定し、PL2の持続時間を極端に短くしている構成が実在する。
最初の一瞬だけ高クロックへ跳ね上がり、すぐさま65Wへ矯正される。
その結果、本来Cinebench R23マルチで3万点級を狙えるCPUが、1万9000点前後まで沈むこともある。
20コアのCore i7を買ったのに、8コアのRyzen 7 7700に負ける。
CPU名だけ見れば高性能。中身は性能封印状態だ。
BTOパソコンを買うなら、CPU型番だけじゃなく、PL1、PL2、Tau、CPUクーラー、VRMまで全部確認すべきだ。型番はブランドで、設定こそが実力だ。
Ryzen 7700X3Dを「省電力版」と呼ぶのも間違い
Ryzen 7 7700X3Dを「7800X3Dより省電力だから、高くても価値がある」と評価する声もある。
だが、7700X3Dと7800X3Dは、どちらも8コア16スレッド、L3キャッシュ96MB、TDP 120Wだ。
違うのはほぼクロックだけ。7700X3Dは最大4.5GHz、7800X3Dは最大5.0GHz。
7700X3Dの実消費電力がわずかに低いのは、特別な省電力設計だからじゃない。単純にクロック上限が低く、性能と一緒に消費電力もついでに下がっただけだ。
そもそも3D V-Cache搭載CPUは、積層キャッシュのせいで熱を逃がしにくく、7700X3Dと7800X3Dの最大動作温度はどちらも89℃に設定されている。高性能な簡易水冷を使っても、温度やクロック上限へ先に当たって、PPTを使い切れないことが多い。
実態は、省電力版7800X3Dじゃない。
クロックと性能を削っただけの7800X3Dだ。
消費電力だけを見て省電力性能を語るから、こういう的外れな評価が生まれる。
CPUの消費電力は、TDPだけじゃ絶対に判断できない
CPUを選ぶときは、最低でもここまで確認しろ。
AMDなら、CPUごとの標準PPTと実測消費電力。
Intelなら、PBP、MTP、PL1、PL2、Tau。
BTOパソコンなら、メーカーが実際にどの電力設定で出荷しているかまで。
TDPは最大消費電力じゃない。
65Wと書かれたCPUが219W食うこともあれば、219W使えるCPUを65Wへ縛って、性能を大幅に削って売ることもできる。
数字だけを見るな。
その数字が何を表していて、実際にどこまで電力を許可されているのか。そこまで確認して、初めてスペック表を読んだことになる。
性能データを確認
CPUの性能と用途別の違いを比較する
ゲーム・制作・普段使いを含めたGearTune Performance DBで候補を比較できます。
CPU性能データを見るGearTuneをチェックして最新ニュースをお見逃しなく。

