これまでGearTuneでは、PCゲームの高画質化に伴い「VRAM 8GBのグラボはもう限界」「これからは16GBが最低限だ」と、散々VRAM不足の現実を煽ってきた。実際、テクスチャデータを最高画質に設定した瞬間にVRAMが枯渇し、ゲームがカクガク(スタッター)になる現象に苦しめられているゲーマーは多いだろう。
だが、大容量VRAMを積んだ高額なグラボでゴリ押すという現在の常識を、根本から覆すかもしれない「ゲームチェンジャー」の足音が聞こえてきている。
それが「ニューラル・テクスチャ圧縮(AIテクスチャ圧縮)」だ。今回はNVIDIA、Intel、AMDが研究と実装を進めるこの次世代技術の仕組みと、低VRAMグラボに希望をもたらすその可能性をめちゃくちゃ分かりやすく解説していく。
そもそも従来の「テクスチャ圧縮」は何がダメだったのか
ゲーム内の見た目を綺麗にする「テクスチャ」は、そのまま保存するとSSDもVRAMも一瞬でパンクする莫大なサイズになる。そのため、従来は「BC1」〜「BC7」と呼ばれるブロック圧縮フォーマットが使われてきた。
これらの従来技術は「どんな画像にも使える汎用的な計算ルール」で圧縮するため、処理が軽くて使い勝手が良い。しかし、汎用的なルールで無理やり圧縮しているため「これ以上は小さくできない」という圧縮率の限界(頭打ち)があった。その結果、4K解像度などの超高画質テクスチャを多用する現代の重いゲームでは、VRAMの容量肥大化をどうしても抑えきれなくなってしまったのだ。
この物理的な限界を「AI(ニューラルネットワーク)」の力で突破しようというのが、各社が進めている研究の最前線である。
先駆者、NVIDIA「NTC」のヤバいデモ(6.5GBが970MBに)
AIテクスチャ圧縮の威力を世界に知らしめたのは、やはりNVIDIAだ。彼らが研究発表した「Neural Texture Compression(NTC)」のデモは、業界に激震を走らせた。
NTCの仕組みは、汎用的な圧縮ルールを使うのではなく、AIにテクスチャデータを読み込ませて「このデータを一番無駄なく圧縮・展開する方法」を個別に学習させるというものだ。
その効果は凄まじく、技術検証や報道によれば、従来の非圧縮で6.5GBも消費していた高解像度テクスチャを、目視での劣化をほぼゼロに抑えたまま「わずか970MB」にまで極小化することに成功している。
まさに魔法のような圧縮率だが、NVIDIAのNTCをそのまま標準規格にするには大きな懸念点がある。それは「Tensorコア(NVIDIA専用のAI処理回路)に強く依存している」ということだ。NVIDIAのRTXシリーズでしかまともに動かない独自技術(囲い込み)では、ゲーム開発者は実装をためらってしまう。
オープン化で追従するIntel「TSNC」とAMDの動き
NVIDIAの強力な技術に対し、オープンなアプローチで追従の構えを見せているのがIntelとAMDだ。
特にIntelは、独自に「Texture Set Neural Compression (TSNC)」という技術をSDKとして発表している。報道によれば、NVIDIAのNTCに匹敵する品質と圧縮率(品質重視で約9倍、超圧縮で約17倍)を叩き出しつつ、最大の弱点であった「専用のAIハードウェア縛り」を克服しようとしている。
Intel Arcの専用コア(XMX)を使えば爆速で展開できるが、それがなくても標準的な命令セットを使って、専用AIコアを持たないNVIDIAやAMDのGPUでも動作する「フォールバック(代替)モード」を備えているのだ。
もちろんAMDも黙っているわけではない。彼らもGPUOpenの取り組みの中で「Neural Texture Block Compression(NTBC)」に関する論文(2024年)を発表し、研究を進めている。NVIDIAのような独自囲い込みを嫌い、既存のグラフィックスパイプラインとの親和性を重視する彼らの動きは、今後の標準化において重要な鍵を握るだろう。
VRAM 8GBグラボでも高解像度で遊べる日が来るかもしれない
誤解のないように言っておくが、これらの技術はまだ「研究やSDK発表」の段階であり、明日のゲームですぐに使えるわけではない。また、VRAMを圧迫するのはテクスチャだけでなく、レイトレーシングやフレーム生成、ジオメトリなど多岐にわたるため、「これさえあれば8GBグラボが完全に無敵になる」と断定するのは危険だ。
しかし、VRAM枯渇の最大の要因である「テクスチャデータによる圧迫」が激減する可能性は極めて高い。
今後、このAI圧縮技術がゲームエンジン(Unreal Engine等)に本格的に統合され、「VRAMに圧縮したまま置き、GPUが描画する瞬間に展開する」という処理が業界標準になればどうなるか。
VRAM 8GBのエントリークラスのグラボであっても、テクスチャ起因のスタッター(カクつき)を起こすことなく、最高画質のテクスチャを適用して高解像度ゲーミングを快適に遊べるようになるかもしれない。
これまで「8GBはもう無理だ」と散々煽ってきた我々だが、ハードウェアの限界をソフトウェア(AI)でねじ伏せようとするこの技術革新には、大きな期待を寄せざるを得ない。今後の各ゲームタイトルへの実装と業界標準化の行方を、GearTuneでは引き続き追っていきたい。
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