DeepSeekが2026年7月31日、「DeepSeek-V4-Flash-0731」のAPI公開テストを開始した。

これは単なる軽量モデルの更新ではない。

主要なコーディング・エージェント評価でGLM-5.2を上回り、世界最高峰のClaude Opus 4.8へ肉薄した。

しかも、モデルの構造もパラメータ数もプレビュー版から一切変わっていない。

変更されたのはポストトレーニングだけである。

それだけでTerminal Bench 2.1は61.8から82.7へ上昇。DeepSWEに至っては7.3から54.4へ跳ね上がった。上位モデルであるDeepSeek V4 Pro Previewにも、エージェント系9項目すべてで勝利している。

DeepSeek V4の本当の恐ろしさは、巨大なモデルを作ったことではない。元の設計に、まだこれだけ性能を引き出せる余力が残っていたことだ。

主要な開発性能でGLM-5.2を超えた

DeepSeek V4 Flash正式版とGLM-5.2の代表的な開発系評価を並べると、異常さが分かる。

ベンチマークV4 Flash正式版GLM-5.2Claude Opus 4.8
Terminal Bench 2.182.781.085.0
DeepSWE54.446.258.0
NL2Repo54.248.969.7

ターミナル操作ではGLM-5.2を1.7ポイント上回り、Opus 4.8との差はわずか2.3ポイント。

DeepSWEでもGLM-5.2を8.2ポイント上回り、Opusとの差は3.6ポイントまで縮まった。

すべての評価でGLM-5.2やOpus 4.8を超えたわけではない。特にNL2RepoではOpusとの差が残る。

それでも、軽量版のFlashが、長時間開発向けの巨大フラッグシップGLM-5.2を主要評価で超えた意味は重い。

GLM-5.2の約3分の1しか動かしていない

モデル規模を比較すると、さらに話がおかしくなる。

モデル総パラメータアクティブパラメータコンテキスト
DeepSeek V4 Flash284B13B100万
GLM-5.2744B40B100万
DeepSeek V4 Pro1.6T49B100万

V4 Flashの総パラメータ数は、GLM-5.2の約38%。

推論時に使うアクティブパラメータは約33%しかない。

言い換えれば、GLM-5.2が推論時に約400億パラメータを動かすところ、V4 Flashは130億しか動かしていない。

それで主要なエージェント性能では上回る。

これは「小型モデルとして優秀」という話ではない。

モデル規模に対する知能効率が、明らかに別次元である。

構造を変えず、追加学習だけで化けた

今回、DeepSeekはモデルを拡大していない。

レイヤー数も、エキスパート数も、アクティブパラメータ数も変えていない。

プレビュー版と同じアーキテクチャへ、エージェント能力を強化するポストトレーニングをやり直しただけである。

それにもかかわらず、

  • Terminal Bench 2.1は61.8から82.7
  • Cybergymは38.7から76.7
  • DeepSWEは7.3から54.4

まで伸びた。

普通なら、ここまで性能を伸ばすためにベースモデルを大型化する。

DeepSeekは違った。

元のモデルが持っていた能力を、追加学習によって正しく引き出しただけで上位モデルを倒した。

つまり、V4 Flashプレビュー版がモデルサイズの限界に達していたのではない。ポストトレーニング側が、アーキテクチャの性能を十分に使えていなかったのである。

今回の正式版は、DeepSeek V4の設計そのものに、まだ巨大な余白が残っていたことを証明した。

DeepSeek V4の設計は他のLLMと一線を画す

DeepSeek V4は、単純なMoEモデルではない。

長文処理ではCompressed Sparse AttentionとHeavily Compressed Attentionを組み合わせ、必要な情報だけを効率よく参照する。

さらに信号伝達を安定させるManifold-Constrained Hyper-Connections、学習効率を高めるMuon Optimizerを採用する。

100万トークン処理時には、V4 Proで前世代V3.2比の1トークン推論FLOPsを27%、KVキャッシュを10%まで削減したとしている。

ポストトレーニングも、単純な教師あり学習ではない。

分野別の専門能力をSFTとGRPOによる強化学習で個別に育てた後、オンポリシー蒸留によって一つのモデルへ統合する。

だから今回の結果は、「良い学習データを追加したら偶然伸びた」というだけではない。

効率的なアーキテクチャと、DeepSeekが蓄積してきた推論学習の仕組みが、ようやく噛み合った結果である。

DeepSeekの推論方式はすでに業界の基礎技術になっている

DeepSeekの強さは、V4だけを見ても理解できない。

DeepSeek-R1は、大規模な強化学習によって自己検証、反省、長い思考過程を獲得できることを示した。

さらにR1の推論データをQwenやLlamaへ蒸留し、1.5Bから70Bまでの小型モデルを大幅に強化した。

DeepSeek自身も、R1から生成した80万件のデータでQwen系とLlama系モデルを学習している。

そして他社もDeepSeekの設計を取り込んでいる。

GLM-5は、長文処理を効率化するためにDeepSeek Sparse Attentionを採用した。つまり今回V4 Flashが超えたGLM-5.2自身も、DeepSeek由来の技術を利用するモデルである。

現在のオープンモデル界では、別のモデルを強化するときにDeepSeekの推論データや設計を使うことが珍しくない。

DeepSeekは競争相手であると同時に、競争相手が性能を上げるための技術供給元になっている。

この状態で本家がポストトレーニングを完成させれば、強いのは当然である。

API価格はGLM-5.2の最大約16分の1

性能だけなら、まだ「ベンチマークで少し上回った」で済む。

価格を加えると話が壊れる。

モデル入力100万トークンキャッシュ入力出力100万トークン
DeepSeek V4 Flash$0.14$0.0028$0.28
GLM-5.2$1.40$0.26$4.40
Claude Opus 4.8$5.00$25.00

V4 FlashはGLM-5.2より、通常入力が10分の1、出力が約15.7分の1、キャッシュ入力は約93分の1である。

Claude Opus 4.8と比べると、入力は約36分の1、出力は約89分の1になる。

もちろん、トークン単価だけで最終的なタスク完了コストは決まらない。

Opusが一度で終える仕事を、安いモデルが何度も失敗すれば逆転する。

しかしV4 Flashは、安い代わりに性能が低いモデルではない。

GLM-5.2を超え、Opus 4.8へ数ポイントまで接近している。

失敗回数を減らせる性能と、ほぼ無料に近いAPI価格を同時に持っている。

これが本当に危険な部分だ。

米国が嫌がるのは性能より価格である

米国企業にとって最も厄介なのは、中国企業が高性能モデルを作ったことだけではない。

最上位モデルに近い性能を、米国勢には再現しにくい価格で提供していることだ。

Opus 4.8の出力価格は100万トークン25ドル。

V4 Flashは0.28ドル。

性能差が数ポイントしかない用途で、価格差は約89倍ある。

この価格が市場基準になれば、米国企業は高額なAPI料金を維持しにくくなる。

AI企業がモデルを巨大化し、GPUを積み上げ、巨額の資金調達を続ける横で、DeepSeekはアーキテクチャと学習効率によって価格表そのものを破壊している。

輸出規制でGPUを制限しても、アルゴリズムの効率化までは止められない。

むしろ計算資源が限られているからこそ、DeepSeekは同じ性能を少ない計算量で出す設計を磨き続けている。

V4 Pro正式版はKimi K3どころの騒ぎではない

今回更新されたのはV4 Flashだけである。

DeepSeek V4 ProのAPI、アプリ、Web版はまだプレビュー版のまま。DeepSeekはV4 Pro正式版について、可能な限り早く提供すると予告している。

V4 Flashは、同じ構造と同じサイズのまま、ポストトレーニングだけでV4 Pro Previewを全項目で上回った。

ならば、1.6兆パラメータ、アクティブ490億のV4 Proへ同等のポストトレーニングを適用したらどうなるのか。

これはまだ予測でしかない。

だが、Flashの伸び幅を見る限り、V4 Pro正式版が現在のオープンモデル競争を一度リセットする可能性は十分にある。

Kimi K3の2.8兆パラメータが規模の暴力なら、DeepSeek V4は設計と学習効率の暴力である。

そして今回の結果を見る限り、後者の方が不気味だ。

まとめ:DeepSeekショックはまだ本番ではなかった

DeepSeek V4 Flash正式版は、世界最高性能のモデルではない。

総合性能ではClaude Opus 4.8がまだ上にいる。

長時間の複雑な開発や知識量では、GLM-5.2やV4 Proが有利な場面もある。

それでも、今回の更新は異常である。

モデル構造は変更なし。

パラメータ数も変更なし。

追加のポストトレーニングだけで、GLM-5.2を主要評価で突破。

Claude Opus 4.8へ数ポイントまで接近。

API出力価格はGLM-5.2の約16分の1、Opus 4.8の約89分の1。

DeepSeekが証明したのは、小型モデルでも戦えるという話ではない。現在のLLMは、アーキテクチャと推論学習を詰めれば、まだ巨大化せずに性能を伸ばせるという事実である。

そして、その推論学習を最も理解している企業がDeepSeekだ。

V4 Flashは前座だった可能性がある。

V4 Pro正式版が同じ伸び方をしたとき、Kimi K3どころの騒ぎでは済まない。

2025年のDeepSeekショックは、米国市場を一度揺らした。

2026年のDeepSeekは、モデル性能ではなく、AIの原価と価格設定そのものを壊し始めている。

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