RTX 50 SUPERシリーズはすでに完成し、少なくとも一部のグラフィックボードメーカーへ実物が届いている。
それなのに発売できない。
報道によると、原因はSUPERシリーズが使用する3GB、つまり24GbitのGDDR7チップだ。
現在のRTX 50シリーズが搭載する2GB品は1枚約20ドル。それに対して3GB品は約60~70ドルとされ、容量は1.5倍なのに価格は3倍前後へ跳ね上がっている。RTX 5080 SUPERとRTX 5070 Ti SUPERは8枚、RTX 5070 SUPERは6枚必要になるため、メモリだけで数百ドルの原価上昇が発生する。なお、この価格はメモリメーカーの公式価格ではなく、AIB関係者を情報源とする報道値である。
これだけを見ると、NVIDIAもメモリバブルに巻き込まれた被害者に見える。
だが、半分しか正しくない。
なぜRTX 50 SUPERは、高騰した3GBチップを使わなければVRAMを増やせないのか。
なぜ最初から、RTX 5080を24GB、RTX 5070 Tiを20GB以上、RTX 5070を16GBで用意しなかったのか。
結論は単純だ。
その方がGPU、基板、VRAMの原価を削り、利益率を高くできたからである。
RTX 50 SUPERは「高密度チップへ載せ替えるだけ」の計画だった
RTX 50 SUPERの予想構成を見ると、NVIDIAの狙いは露骨に分かる。
| 製品 | 現行モデル | SUPER予想 | メモリバス |
|---|---|---|---|
| RTX 5080 | 16GB | 24GB | 256-bitのまま |
| RTX 5070 Ti | 16GB | 24GB | 256-bitのまま |
| RTX 5070 | 12GB | 18GB | 192-bitのまま |
RTX 5080 SUPERとRTX 5070 Ti SUPERはCUDAコア数も据え置かれる見込みだ。RTX 5070 SUPERだけは6,144基から6,400基へ小幅に増えるが、三製品とも本質はGPUコアの強化ではない。
現在の2GBチップを3GBチップへ交換し、同じメモリバス、同じチップ枚数のままVRAMを1.5倍へ増やす製品である。
これは通常なら極めて効率のよい商品設計だ。
新しいGPUダイを開発する必要がない。
メモリコントローラーを増やす必要もない。
基板設計も大幅には変更せず、より高密度なメモリへ載せ替えるだけで「SUPER」として再販売できる。
開発費を抑えながら、VRAM不足を不満に感じていた利用者へ買い替えを促せる。
GPUメーカーから見れば、随分と優秀な商売である。
ただし、その計画は3GB GDDR7が安定して安く供給されることを前提としていた。
その前提だけが、見事に崩壊した。
なぜ最初から24GBと18GBで発売しなかったのか
現行RTX 50シリーズの公式仕様は、RTX 5080が256-bit・16GB、RTX 5070 Tiが256-bit・16GB、RTX 5070が192-bit・12GBである。
RTX 5080は30Gbpsの高速なGDDR7によって960GB/s、RTX 5070 Tiは896GB/s、RTX 5070は672GB/sの帯域を確保している。
帯域だけを見れば優秀だ。
問題は容量である。
RTX 5080ほどのGPUへ16GB、RTX 5070へ12GBしか与えなかったのは、技術的にそれ以上搭載できなかったからではない。
NVIDIAが採用した16Gbit、つまり2GBのGDDR7チップでは、
- 256-bitなら8枚で16GB
- 192-bitなら6枚で12GB
になるからだ。
容量を増やすには、チップを高密度化するか、メモリチャネルを増やしてチップ枚数を増やす必要がある。
NVIDIAは後者ではなく、将来登場する24Gbitチップへ載せ替える道を選んだ。
Samsungが業界初の24Gbit GDDR7を発表したのは2024年10月で、量産予定は2025年初頭だった。RTX 50シリーズの発表直前だったため、初期製品から大量採用するには供給、歩留まり、価格の面でリスクがあったことは理解できる。
しかし、これは「24Gbit品を最初から使えなかった」という話でしかない。
GPUの設計段階からメモリバスを広く取り、一般的な2GBチップを多く搭載する選択肢はあった。
NVIDIAはそれを選ばなかった。
メモリバスは基板上の線を増やすだけではない
ここで「バス幅なんて増やせばいい」と片付けるのも雑である。
メモリバスを広げるには、GPU内部に追加のメモリコントローラーとPHYが必要になる。
GPUパッケージの端子数も増える。基板上では大量の高速信号を同じ長さと条件で配線し、信号品質と電源品質を維持しなければならない。
高速なGDDRインターフェースは、GPUダイ、パッケージ、基板、メモリを一体で設計する必要がある。チャネルが増えればGPUのダイ面積、パッケージ、基板層、消費電力、検証費用まで増えやすい。
つまり、狭いバスと高速なメモリを組み合わせる設計には合理性がある。
- GPUダイを小さくできる
- パッケージを簡素化できる
- メモリチップ数を減らせる
- 基板設計を抑えられる
- 製品区分を作りやすい
RTX 5080とRTX 5070 Tiは、前世代の対応製品からバス幅をさらに狭くしたわけではない。
ここでいう「バスをケチった」とは、GPUの演算性能が大きく向上したにもかかわらず、メモリチャネルを増やさず、256-bitと192-bitの枠へ収め続けたという意味だ。
設計として間違いではない。
利益率を重視した設計として、非常によくできている。
そして、非常によくできた利益重視の設計が、メモリバブルによって最悪の形で裏返った。
今では12枚の普通のチップを使った方が安い
報道されている価格を使って計算すると、現在の異常さが分かる。
256-bit製品の場合
現行RTX 5080とRTX 5070 Tiは、2GBチップを8枚使う。
2GB × 8枚 = 16GB
20ドル × 8枚 = 約160ドル
SUPERでは3GBチップを8枚使う。
3GB × 8枚 = 24GB
60~70ドル × 8枚 = 約480~560ドル
VRAM容量は8GB増えるだけなのに、報道値ではメモリ原価が約320~400ドルも増える。
一方、設計段階から384-bitバスを持たせ、2GBチップを12枚搭載していれば24GBになる。
2GB × 12枚 = 24GB
20ドル × 12枚 = 約240ドル
GPUダイ、パッケージ、基板の追加費用は含まれていないため、製品全体で必ずこちらが安いとは断定できない。
それでも、メモリ部品だけなら12枚構成の方が、8枚の高密度チップより240~320ドルも安い計算になる。
コストを下げるためにチップ枚数とバス幅を削ったはずが、今ではチップを多く使った方が安い。
かなり完成度の高い自業自得である。
192-bit製品の場合
RTX 5070は2GBチップ6枚で12GBだ。
SUPERでは3GBチップ6枚で18GBになる。
現行:20ドル × 6枚 = 約120ドル
SUPER:60~70ドル × 6枚 = 約360~420ドル
仮に256-bitバスと2GBチップ8枚で設計していれば、容量は16GB、メモリ原価は約160ドルだった。
18GBには届かない。
しかし、RTX 5070を最初から16GBで発売でき、現在のように高価な3GBチップへ依存して18GB化する必要もなかった。
RTX 5070 SUPERの18GBは魅力的だ。
だが、そもそもRTX 5070が12GBでなければ、これほど待望される製品にもなっていない。
帯域のためにGDDR7が絶対必要だったわけではない
RTX 50シリーズはGDDR7によって、狭いバスでも高いメモリ帯域を実現した。
しかし、ウルトラハイエンドのRTX 5090を除けば、同程度の帯域は広いバスとGDDR6Xでも計算上は達成できる。
RTX 5080 SUPERの予想帯域は、256-bit・32Gbpsで1,024GB/sだ。
384-bitバスなら、約21.3Gbpsでほぼ同じ帯域になる。
RTX 5070 Ti SUPERの896GB/sは、320-bit・22.4Gbpsで達成できる。
RTX 5070 SUPERの672GB/sは、256-bit・21Gbpsで達成できる。
MicronはGDDR6Xを最大24Gbpsまで製品化していたため、必要な速度そのものはGDDR6Xの実用範囲に入る。
もちろん、BlackwellへGDDR6Xをそのまま載せ替えられるという意味ではない。
GPUのメモリコントローラー、基板、電源、信号設計を最初からGDDR6X向けに作る必要がある。
GDDR7には帯域、電力効率、将来性という利点もある。
それでも、NVIDIAには二つの設計方針があった。
- 広いバスと多数の比較的安価なメモリで容量と帯域を確保する
- 狭いバスと少数の高速メモリで原価と複雑性を抑える
NVIDIAが選んだのは後者だった。
高速なGDDR7を使えば、メモリコントローラーを増やさなくても帯域を稼げる。
将来、同じ枚数の高密度チップへ交換すれば容量も増やせる。
平常時なら、利益率を高めながらSUPERシリーズまで作れる見事な設計だ。
メモリ価格が正常なら、だが。
VRAMは性能部品であると同時に、製品区分の壁でもある
NVIDIAがGeForceへ必要最小限のVRAMしか載せない理由は、単純な製造原価だけではない。
VRAM容量は、GeForce、RTX PRO、データセンター製品を分ける重要な壁だからだ。
RTX PRO 6000 Blackwell Workstation Editionは、96GBのGDDR7 ECC、1,792GB/sの帯域、4基ずつのNVENCとNVDECを搭載する。Server Editionも96GB ECCと512-bitバスを採用している。
当然、ECC、認定ドライバー、企業向けサポート、信頼性などが異なるため、GeForceとRTX PROはVRAM容量だけで比較できない。
それでも、安価なGeForceへ十分なVRAMを載せれば、ローカルAI、3DCG、映像制作を行う一部の利用者は高価なプロ向け製品を買わずに済む。
RTX 5080が最初から24GB、RTX 5070 Tiが24GB、RTX 5070が16GBなら、消費者にはうれしい。
NVIDIAの製品区分としては、あまりうれしくない。
NVIDIAは製品別の利益率を公開していないため、「GeForceのVRAMを意図的に削ってRTX PROを買わせた」と内部事情まで断定することはできない。
ただし、十分なVRAMを上位製品の価値として残す経済的な動機は明白である。
NVIDIAにとって、ゲーマーはもはや事業の中心ではない
NVIDIAの2026会計年度におけるデータセンター売上高は1,937億3,700万ドル。
対してゲーミング部門は160億4,200万ドルだった。
ゲーミングも巨大事業だが、データセンター売上高は約12倍に達している。
この状況で、NVIDIAが優先する製品は明らかだ。
同じ製造能力、メモリ、基板、GPUダイを使うなら、数百ドルから千数百ドルで売るGeForceより、企業やAI事業者へ高価格で販売できる製品へ回した方が利益になる。
DIYユーザーやゲーマーを捨てる必要はない。
DLSS、CUDA、レイトレーシング、ブランド力があるため、VRAM容量を抑えても売れるからだ。
NVIDIAの年次報告書でも、2026会計年度のゲーミング売上高はBlackwellへの強い需要によって前年比41%増加したとされる。
つまり、RTX 5080が16GBでも売れた。
RTX 5070が12GBでも売れた。
売れるのであれば、最初から高価なメモリと広いバスを与える理由はない。
あとからSUPERとして増量すれば、もう一度売れる。
少なくともメモリバブルが発生する前までは、実に合理的だった。
NVIDIAはメモリバブルを予知できなかった。それでも原因は自分で作った
現在の異常なメモリ価格までNVIDIAが予測できたとは言えない。
Samsungの24Gbit GDDR7は、RTX 50シリーズ発表直前に開発が公表された新しいメモリだった。
AI需要によってDRAM市場がここまで歪み、3GB品が2GB品の約3倍になる事態は、通常の製品計画では想定しにくい。
したがって、メモリバブル自体をNVIDIAの責任にするのは違う。
だが、バブルによって簡単に破綻する製品構成を選んだのはNVIDIAである。
RTX 50シリーズを最初から、
- RTX 5080:24GB・384-bit
- RTX 5070 Ti:20GBまたは24GB・320~384-bit
- RTX 5070:16GB・256-bit
に近い構成で設計していれば、GPUと基板の原価は上がっていた。
その代わり、希少な3GBチップへ依存せず、一般的な2GBチップで十分な容量を確保できた。
そもそも発売から短期間でVRAMを1.5倍へ増やすSUPERシリーズを必要としなかった可能性も高い。
NVIDIAは製品の耐久性より、初期原価、利益率、製品区分、後発モデルの余地を優先した。
企業としては合理的だ。
消費者にとっては、別にありがたくない。
まとめ:RTX 50 SUPERを止めたのはメモリ価格、追い込んだのはNVIDIA
RTX 50 SUPERが発売できない直接の原因は、3GB GDDR7の異常な価格である。
だが、根本原因はそれだけではない。
NVIDIAはRTX 50シリーズで、狭いメモリバスと少数の高速GDDR7を組み合わせた。
GPUダイ、パッケージ、基板、VRAMの原価を抑えながら、高い帯域を実現できる。
将来は同じチップ枚数のまま3GB品へ交換し、SUPERシリーズとして容量を1.5倍へ増やせる。
利益率と製品展開を考えれば、非常に効率的な設計だった。
その結果、3GBチップが高騰した現在では、24GBを作るために8枚の高密度チップを使うより、12枚の通常チップを使った方がメモリ部品だけなら安いという、ひどく間抜けな逆転が起きている。
しかし、メモリバスはGPUダイに作り込まれている。
完成後にBIOS更新で256-bitを384-bitへ増やすことはできない。
RTX 50 SUPERは完成しているのに、価格を成立させられず止まっている。
NVIDIAはメモリバブルの被害者ではある。
同時に、VRAMを性能部品ではなく、原価と製品区分を調整するための弁として扱ってきた当事者でもある。
RTX 50 SUPERが出せないのは、NVIDIAが利益を追求したからではない。
企業が利益を追求するのは当然だ。
目先の利益率を高めるために、メモリ市場が正常であることへ依存しすぎたからだ。
平時にVRAMとバスを削って積み上げた利益が、異常時には数百ドル分のメモリ原価となって戻ってきた。
随分と高価な請求書である。
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