動画編集や3Dモデリングを行うクリエイターにとって、PCのCPU性能は作業効率に直結する
特にAdobe Premiere Proなどでゴリゴリ編集する場合、編集作業の快適さやエンコード時間において、マルチコア性能の差はそのまま「稼ぎの差」になる。

だからこそ、少し奮発して「Core i7搭載」や「Core Ultra 9搭載」などを謳うBTOパソコンを購入する人は多い。ただ、過去にショップ店員として数多くの実機を見てきた経験から言うと、個人的には「クリエイターほどPCは自作したほうがいい」と思っている。

別に自作PCのロマンを語りたいわけではない。単純に、BTOパソコンに載っているIntel製CPUは「物理的に性能を出し切れていない」ケースが多すぎるからだ。

マザーボードの「フェーズ数」と「電力制限」のカンケイ

最近のIntelの上位CPUは、とにかく電力を喰う。
カタログスペック通りの性能を出すためには、200W〜250W近い電力を安定して供給し続ける必要がある。

ここでボトルネックになるのが、BTOパソコンに採用されている「マザーボード」だ。 一部の良心的なメーカーを除き、多くのBTOではコストダウンのために、電源回路(VRMフェーズ)を最小限に抑えた廉価なマザーボード(HチップセットやBチップセットの下位モデル)が使われている。
これは大手になるほど顕著だ。

そんなマザーボードに200Wもの電力を流し続けたら、当然VRMが熱を持ちすぎてサーマルスロットリングを起こすか、最悪の場合は故障につながる。 では、メーカーはどうやってそれを防いでいるのか。答えはシンプルで、出荷時のBIOS設定で「CPUの電力制限(PL1)を65Wなどに縛る」という処理を行っているのだ。※実際にはもっと細かく制御しているが

瞬間的な最大電力(PL2/MTP)が219Wに設定されていても、それはほんの一瞬しか持続しない。エンコードなどの重い作業が始まると、あっという間に65Wの省エネモードに落とされてしまう。これが、BTOで主流となっている「KなしのF付き」や「無印」CPUの実態だ。

現場で実測したCinebench R23のスコア

「電力制限がかかると、実際どれくらいスコアが落ちるのか?」 私が現役時代に現場のBTO実機で計測した、Cinebench R23(マルチコア)の数字をいくつか並べてみる。

  • Ryzen 7 7700: 約 18,500
  • Ryzen 7 9700X: 約 20,000
  • Ryzen 7 9800X3D: 約 22,000
  • Ryzen 9 9900X: 約 32,000 (※公称値ベース)
  • Ryzen 9 9950X: 約 42,000

ここまではAMDのRyzenシリーズ。これらは消費電力が低く、またCPUの電力制御方法が優秀なため、廉価なマザーボードでも概ね公称スペック通りの数字が出る。 (参考:微分から理解するCPU性能。スコアという「積分値」

一方、BTOに組み込まれたIntelのスコアはこうなる。

  • Core i7 14700F: 約 19,000
  • Core Ultra 7 265(F): 約 23,500

Core i7 14700Fは、電力無制限の環境であれば本来33,000前後のスコアを出せるポテンシャルがあるCPUだ。しかし、実機では良くて20,000、下手すると19,000程度にまで落ち込む。上限88Wで動作するRyzen 7 7700とほぼ同じか、それ以下のスコアしか出ない。
Core Ultra 7 265(F)に関しても、Ryzen7 9800X3Dよりちょっと高い程度のスコアにとどまっている。

別にBTOメーカーが詐欺をしているわけではない。与えられた予算とパーツの中で安全に動作させるための、彼らなりの合理的な設計だ。ただ、その構造を知らずに「Core i7、Ultra 7だから速いはず」と期待して買うと、結果的に大きく損をしてしまう。

「省エネ」と宣伝されるCore Ultra 200Sの罠

消費電力についても触れておきたい。 最近「Core Ultra 200Sシリーズは省エネになった」と盛んに宣伝されている。確かに14世代よりはマシになったが、マルチスコアでカタログスペックを出し切ろうと思ったら、結局のところ200W以上の電力が必要になる。

前提としてクラスごとの対抗馬を整理しておくと、Intelの「Core Ultra 7 265K」の競合はAMDの「Ryzen 9 9900X」であり、最上位の「Core Ultra 9 285K」の競合が「Ryzen 9 9950X」となる。

この競合同士(285Kと9950X)で比較した場合、AMDのフラッグシップ「Ryzen 9 9950X」がTDP 170W・PPT(最大電力)200Wであるのに対し、Intel(285K)はTDP表記こそ125Wとしているが、実際の最大電力設定は250Wに達する。 もし両者を同じ「200W縛り」で動かしたら、当然AMDのほうが高いスコアを出す。逆を言えば、AMDのPPTを250Wまで上限解放して同条件の電力で殴り合わせたら、やはりAMDが勝つ。

コア数の関係上同等の条件ではないが、Core Ultra 7 265KとRyzen 9 9900Xでも電力設定を9900X側の上限である162Wに合わせると9900Xのほうが高性能になる。相対的なコア数が少ないというハンデが有りながらだ。

根本的な性能に対する電力効率という意味では、圧倒的にAMDのほうが優秀なのだ。

クリエイターなら自作がおすすめ

ではどうすればいいかと言うと、純粋にCPUパワーが必要なクリエイターなら、素直に「Ryzen 9」あたりを搭載するBTOを選ぶか、自作するのがオススメだ。

動画編集でIntelを選ぶメリットがあるとすれば、「内蔵GPU(QSV)」の存在だ。QSVは4:2:2 10 bitの動画デコードに対応しているため、強力なプレビュー支援になる。既存のRTX 40シリーズ以前やRadeon GPUと組み合わせる際にも非常に有効だ。 どうしてもBTOでIntelを買うなら、QSVが削られていない「Kモデル(F付きは避ける)」を選ぶべきだろう。

とはいえ、AMDのRyzen 9モデルを搭載したBTOは市場に少なく、結局は自作になってしまう可能性が高い。

Intelの上位モデルは、安く買えるマルチコア性能という意味では確かに価値がある。しかし、BTOで適当に買ってしまい性能を出せなければ意味がない。

性能にこだわるなら、自作一択だ。 実は、PCショップの「組立代行サービス」を利用したほうが、結果的に大手のBTOパソコンより安く、かつ高品質に収まることのほうが多い。筆者は個人的にはBTOパソコンは絶対に買わないし、知り合いから相談されたら間違いなく自作か組立代行をおすすめしている(大抵は、私が組んであげることになるのだが)。

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