待望の最強CPU「Ryzen 9 9950X3D2 Dual Edition」が正式に発表された。
しかし結論から言うと、このCPUは決してコスパが良くないし、これを本当に必要としている人は限られている。

その理由と、アーキテクチャの仕様から読み解く「ゲームサーバー用途」というピンポイントなユースケースについて解説していく。

Ryzen 9 9950X3D2の仕様とアーキテクチャ

まず、AMDのRyzenシリーズには「CCD(Core Complex Die)」というCPUコアのまとまりがある。CCDひとつで「1個のCPU(最大8コア)」だと考えてもらうとわかりやすい。上位のRyzen 9シリーズは、このCCDを2つ搭載することで16コアを実現している。

従来の「Ryzen 9 9950X3D」は、片方のCCDにしか大容量キャッシュ(3D V-Cache)が搭載されていなかった。構成としては「9700XのCCD」と「9800X3DのCCD」が1つのパッケージに合体したような状態だ。

対して、今回登場した「Ryzen 9 9950X3D2 Dual Edition」は、両方のCCDに3D V-Cacheが搭載されている。つまり「9800X3D × 2」という構成になった。
これにより、L3キャッシュの総容量は192MB(96MB × 2)に達し、どのコアにタスクが割り当てられても等しく大容量キャッシュの恩恵を受けられる。これが最大の仕様変更点だ。

TDP200Wの理由は「マルチ性能を引き上げる界王拳」

ここでAMDの公式仕様表を注意深く読み解きたい。
従来の「Ryzen 9 9950X3D」の最大ブーストクロックが5.7GHzだったのに対し、「9950X3D2」では5.6GHzへとわずかに低下している。しかしその一方で、TDP(熱設計電力)は200Wへと大幅に引き上げられた。一見すると矛盾するような仕様変更だが、アーキテクチャの構造を紐解けば明確な理由が見えてくる。

まず、最大ブーストクロックが低下した要因は、両方のCCDに3D V-Cacheがスタックされたことによる「放熱性能の悪化」と「電圧耐性の低下」だ。
従来の9950X3Dは、熱源となるキャッシュが乗っていない側のCCD(高クロックで回しやすいCCD)を利用することで最大クロックを達成する仕様だった。さらに、積層されたSRAM(キャッシュ)は物理的に高電圧に弱いという弱点もある。本モデルは両方のCCDに「熱がこもりやすく、電圧も盛れないキャッシュ」が乗っているため、単一コアの瞬間的な最大クロックは下げざるを得なかったという背景がある。

では、単一コアのピーク性能が下がったにもかかわらず、なぜTDPは大幅に引き上げられたのか。
結論から言えば、全コアフルロード時に維持できるクロックを底上げするためだ。

前述の通り、V-Cacheを搭載している以上、コアに盛れる「電圧(V)」の上限は厳しく制限されている。電圧を上げられない状況下で全コアの高いクロックを維持するには、より多くの「電流(A)」を流し込むしかない。そのために、大元となる消費電力(W)の枠を大きく広げる必要があったのだ。

AMDのプラットフォームにおいて、実際の最大消費電力の指標となるPPT(Package Power Tracking)はTDPの約1.35倍となる仕様である。TDPが200Wとなれば、計算上の電力上限(PPT)は270W付近に達する。冷却の限界を考慮すると実際の運用時に設定されるPPTは230W~250W程度に落ち着くと思われるが、それでも従来のX3Dモデルからは考えられないほど潤沢な電力が供給される。

つまりAMDは、単一コアのピーク性能を犠牲にした代わりに、引き上げた電力上限の枠を使って「電流」を流し込み、強引にマルチスレッド性能を向上させるアプローチをとったのだ。

これは、競合となるIntelの「Core Ultra 200S Plus」シリーズが誇る高いマルチコア性能に対抗するための措置である。あえて電力リミッターを解放し、力技でマルチ性能を引き上げた、いわば「界王拳」のようなチューニングだと言えるだろう。

純粋なゲーム性能は向上するのか?

両方にキャッシュが乗り、マルチ性能も底上げされたことで、ゲーム性能も劇的に上がると思われがちだ。しかし実際のところ、「Ryzen 7 9800X3D」や従来の「9950X3D」と大差ない結果になると思われる。理由は以下の3点だ。

  1. CCD間の通信遅延(Infinity Fabricの壁)
    ゲームの処理を2つのCCDにまたがって実行すると、CCD同士を繋ぐインターコネクト(Infinity Fabric)を経由するため、どうしても通信遅延(レイテンシ)が発生する。そのため、ゲームにおいては「1つのCCD(8コア)の中だけで処理を完結させる」ほうがフレームレートが高く安定する。
  2. ゲームは8コア以上のリソースを持て余す
    現在のPCゲームで、8コア以上のCPUリソースを並列でフル活用できるタイトルはごくわずかだ。両方のCCDにキャッシュがあっても、ゲーム単体の処理では結局片方のCCD(8コア分)しか使われないケースが多い。
  3. GPUボトルネックと人間の限界
    性能的にはモンハンワイルズクラスの重量級ゲームを同時に2つ起動することも可能だ。
    しかし、CPU側にどれだけ余裕があっても、先にグラフィックボード(GPU)の処理能力が限界を迎える。
    マルチGPUでも組まない限り現実的ではないし、何より1人のプレイヤーが2つのゲームを同時に操作することは不可能だ。

真価を発揮するのはゲームサーバー用途

通常のゲーマーには完全にオーバースペックとなるこのCPUだが、「自分でゲームサーバーを立てる用途」においては唯一無二の真価を発揮する。

「ARK: Survival Ascended (ASA)」や「GTA V (FiveM)」などの広大なワールドや多数のAIを処理するゲームサーバーは、CPUのキャッシュ容量がダイレクトにパフォーマンス(Tickrateの安定性など)に影響する。

Ryzen 9 9950X3D2であれば、すべてのコアが広帯域の大容量キャッシュを備えている。
例えば、OS側でプロセス割り当て(CPUアフィニティ)を設定し、16コアを「1サーバーあたり4コア」に分割したとする。この構成なら、激重なゲームサーバーを4つ同時に、互いに干渉させることなく、すべて大容量キャッシュの恩恵下で快適に処理させることが可能になる。

従来の9950X3Dでは「キャッシュのないCCDに割り当てられたサーバーの処理速度が落ちる」というジレンマがあったが、このCPUならその心配はない。自宅で複数サーバーを稼働させる「逸般の誤家庭」向けとして、これほど理にかなった仕様はない。

また、1台のPCでサーバーを立てつつゲームもプレイしたい場合にも、恩恵を受けられる。

クリエイティブ用途では中途半端でコスパが悪い

TDPが底上げされているため、CPUレンダリングなどの処理において恩恵があるのは事実だ。
しかし、現代のクリエイティブ作業は「GPUレンダリング」が圧倒的な主流となっている(ハードウェアエンコードなども同様だ)。

ぶっちゃけ、クリエイティブ用途において既存の「Ryzen 9 9950X」「9950X3D」と今回の「9950X3D2」の間に、大きな性能差はない。予想価格で約18万円とも言われる本機をあえて選ぶのは、あまりにコストパフォーマンスが悪い。

さらに致命的なのが、AM5プラットフォームにおける「PCIeレーン数の少なさ」という構造上の限界だ。ハイエンドGPUを1枚挿せば拡張はほぼ打ち止めになってしまう。

価格帯が違うとはいえ、スレッドリッパーの領域に片足を突っ込んだ高額なCPUであるにもかかわらず、プロが求めるマルチGPU環境は構築できない。厳しい言い方になるが、膨大なPCIe帯域を活かせるスレッドリッパーと比べてしまえば、所詮は「コンシューマー向けのおもちゃ」の域を出ないのだ。

一般的なGPU1枚構成でクリエイティブ作業をするのであれば、圧倒的にコスパに優れる無印の「9950X」で実用上十分すぎるだろう。

まとめ

  • 普通のゲーム用途: 9800X3D や 9950X3D で十分。(価格差ほどの性能差は出ない)
  • クリエイティブ用途: Threadripper や 既存の9950X の方がコスパに優れる。
  • Ryzen 9 9950X3D2が適している人: 重いゲームサーバーを複数同時にホスティングする管理者。

自分がどの用途にPCを使うのか、そのソフトウェアがどのような挙動(GPU依存かCPU依存か、何コアまで使い切れるか)をするのかを見極めれば、この特殊なCPUが本当に必要かどうかは自然と見えてくるはずだ。

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